想いが重なるとき
次の日の夜だった。
今日も魔界の夜は月明かりに照らされて幻想の世界を作り上げていた。
静かな晩餐が続いている。


食事を終えた後、シュンは蘭世に近づいて小声で話した。
「1時間後に想いが池に来てくれ。試すなら早い方がいい・・・」
「・・・・うん」
蘭世も小さく返事をする。
シュンは軽く蘭世に目配せをしながら食卓の間をを出て行った。



蘭世は一人部屋に戻ってつけたままにしてあったペンダントをぎゅっと握りしめた。
逸る鼓動が大きな音を立てたまま止まらない。
以前、魔界人に生まれ変わる前に俊からもらったペンダント、
そして魔界人になってからも力を使わずに俊が直したペンダント・・・
思い出の詰まったその小さなペンダントは月の明かりを受けてきらっと輝いた。
(真壁くん・・・・お願い、力を貸して・・・・私を助けて・・・・想いが池に来て・・・)




        **********




俊は食卓にうつ伏してうつらうつらと眠りかけていた頭をはっと持ち上げた。
「江藤・・・?」
蘭世の声が聞こえた気がして俊は目を覚ましたのだった。
きょろきょろみまわしたが、見慣れた自分のアパートの部屋の風景がそこにあるだけで、
蘭世の姿はそこになかった。


(江藤・・・・)
夢だったのか・・・・?
頭を左右に振って俊は立ち上がった。
窓の外を覗いてみる。
どれくらい眠っていたのだろう。
もう外は暗くなっている。
蘭世の行方を案じて俊はこの2日眠れずにいた。
魔界からはその後の連絡もなく、八方塞の状態で俊は苛立ちをかくせられないでいた。

でも・・・・
今のは・・・・
蘭世の声を確かに聞いた気がする。
「江藤・・・お前が呼んでいるのか・・・?」
俊はばっと上着を手にとって江藤家に向かった。


「え?蘭世が??」
望里と椎羅が俊の勢いに負けずに問い返した。
「はい!確かに俺を呼んだんです。どこからかはわからないが、確かに!!
想いが池に行ってきます・・・。」
「想いが池・・・?」
「こいつが現れたのも想いが池・・・さっきの江藤の言葉も最後までは聞き取れませんでしたが、
そう言った気がして・・・」
俊はぐっと握りこぶしに力を入れて答えた。
「ぼくもそう思う。想いが池に何かがあるかも。そんな気がする。
それにお姉ちゃんは、きっとお兄ちゃんに助けを呼ぶと思うんだ」
鈴世が言った。
「わかった・・・何かあったら知らせてくれ。我々はここで待機していよう。頼むよ真壁くん。」
望里は言った。



「お兄ちゃん、お姉ちゃんを助けて。お兄ちゃんじゃなきゃ・・・。」
鈴世はすがるように俊に言った。
「ああ、心配するな。まかせておけ。」
俊はそういって自分を見上げる二つの瞳を見ながら鈴世の頭をなでた。
「あんたも来てくれ」
俊はランゼに言った。
「はいっ!!!」
そういうと俊はランゼの腕をつかみ想いが池にテレポートした。




               ********




「うまくいくかな・・・・」
蘭世はペンダントを握り締めたままシュンに不安げに言った。
「・・・・絶対に成功させる。必ず蘭世を元に戻して、向こうに行ったランゼをこちらに連れ戻してみせる。」
シュンは意を決して答えた。
凛とした品位・・・立ち居振る舞いは王子とした風格を持ち合わせて、俊とは違う何かを感じていた蘭世であったが、
その強い眼差しは確かに俊と同じ・・・
やっぱりどこかでつながっている・・・・・・?


「・・・・真壁くん・・・・」
「え?」
「あっ・・・・ごめんなさい。真壁くんに見えた・・・・」
「・・・ふっ、同じ姿だろ?」
「・・・・そうじゃなくて・・・・真壁くんがそういってる気がしたの・・・・」
「・・・・今がそのときか・・・・」
シュンが空を見上げていった。
もう少しで月が真上に来る。


「・・・・運命を背負ってるっていう話だけどね・・・・」
蘭世はふとつぶやいた。
「・・・どうした?突然・・・」
シュンが尋ねる。
「強い運命を背負ってるのは、私だけじゃない。きっと真壁くんの方がもっと強い。真壁くんがそうなんだから、あなたもきっとそうだわ。
もし、私が真壁くんと強い運命で結ばれているとしたら、あなたとランゼさんもきっとそう。
そしてあなたと私もそう・・・・・・・
・・・・・きっと想いは重なるはずよ・・・」
蘭世はシュンの手をぎゅっと握り締めた。



「蘭世・・・・・・・・いや、ランゼ・・・・」
「助けて・・・・真壁くん・・・・力を貸して・・・・」
2人は手を取り合ったままじっと祈った。




                ********




静かな想いが池を見渡しながら俊とランゼは立ち尽くしていた。
空からまぶしいくらいの月の光が降り注いでいる。
だが、俊は空気が微妙に静かに渦巻いているのを肌で感じていた。
何かが来る・・・


目を閉じてその空気の動きに俊は集中する。
ランゼの手を取りぎゅっと握り締めた。
ランゼも俊のその姿を見て同じように目をつぶり、意識を集中させる。
「何かが起ころうとしている。・・・・深く念じろ。・・・近いぞ・・・」
つないだ手をもう一度強く握りって俊は言った。
「・・・・はい!」
ランゼもその手を握り返して祈る。
(王子・・・シュン様・・・・・シュン・・・・!!!)
(江藤!戻って来い!俺のところに・・・・!!!)




               ********




一瞬だった。
月が光を強めたのだろうか・・・・辺りが真っ白になるくらい輝いた。
だがそのあと、すぐ真っ暗闇に包まれた。
(浮かんでいる・・・?)
そっと目を開ける
「あ!!!!」
4人が同時に声を上げた。
そしてその瞬間、シュンの側にいた蘭世、そして俊の側にいたランゼが同時に消え、それぞれのもとに入れ替わった。
「あっ・・・あっ・・・・ま、真壁くん・・・・・?」
「江藤・・・・・」
ほっと息を吐き俊は蘭世を強く抱きしめた。
「よかった・・・・無事で・・・・」
「うん・・・・ありがとう・・・・」
蘭世はにこっと微笑んでそれからもう一組の2人を見た。


突然側に来たランゼを見てシュンは一瞬驚いた顔を見せたが、その顔もふっと緩んだ。
「・・・・ランゼ・・・・」
「・・・・シュン・・・・」
ランゼは目に涙を浮かべながらシュンを見つめていた。

「・・・久しぶりだな・・・お前がシュンって呼ぶの」
シュンは微笑みながら言った。
「あっ、、、申し訳ございません・・・」
そういってランゼは慌ててシュンの腕の中から抜け出そうともがいた。だがその行為も空しくそこから逃れることはできなかった。


「いいんだ。それで。俺はそう呼んで欲しいんだ。お前にだけは・・・」
シュンはぎゅっともう一度ランゼを抱きしめて言った。
「え・・・・?」
「お前が戻ってきてくれただけで・・・俺は・・・」
そういってシュンはランゼを見つめた。
「・・・・私は・・・・あなたのそばにいてもよろしいの?」
「お前のほかに誰がいるんだ?俺はお前を愛してる・・・・ずっと・・・子供のときから・・・
これからもずっと・・・」
「・・・シュン・・・・私も・・・・私もあなたを愛してます。・・・・ずっとお側にいたい・・・」
ランゼの大きな瞳から、透き通った涙が零れ落ちた。

2人はお互いの瞳の奥を見つめ、どちらからともなく唇を寄せ合った・・・・




「よかった・・・想いを伝えられたみたい・・・ほんとによかった・・・・」
2人の重なりを見守っていた蘭世は、同時に涙を流した。
一方俊は、2人の姿をどうしても自分達と重ねてしまって静止できないままそっぽ向いていた。
「ね、真壁くん、よかったね♪」
「・・・・あ、ああ」


その瞬間暗闇が、一気に白ばみはじめて
4人はそれぞれの世界にすーーっと吸い寄せられていった。
蘭世はもどりつつある途中で頭の中に送られてきたシュンの言葉を聞いていた。
(蘭世、ありがとう・・・お前のおかげだ・・・・お前とももっと話をしてみたかったがな・・・)
蘭世はにっこり微笑んで俊の腕をぎゅっと掴んだ。




        ****************




どれぐらいここで眠っていたのだろう・・・。
蘭世と俊は想いが池のほとりで抱き合ったまま眠っていた。
もうすでに太陽が高く上り辺りはいつもの想いが池の風景になっていた。
「・・・江藤・・・」
そっと俊が蘭世を起こすと蘭世も、んっ・・・と目を顰めてから開いた。
「あ、・・・・真壁くん・・・・」
「大丈夫か・・・?」
俊はそういって蘭世が起き上がるのを助けた。
「よかった・・・・戻ってきたんだよね・・・」
「ああ」
(いつもの真壁くんだ・・・・・・)
うるうると目に涙を浮かべながら蘭世は俊を見つめた。
俊は何も言えずに蘭世をぎゅっと抱きしめた。


(こうじゃなくて・・・・言葉にしなきゃいけないのに・・・・・)
どうしても言葉にできない俊はもどかしさを感じる。
「ごめん・・・・」
「え?どうして真壁くんが謝るの?」
きょとんとしながら蘭世は答えた。

「え?いや、その・・・お前、なんか悩んでたりとか・・・・」
俊はどういって言いかわからずにしどろもどろになる。
「悩み?え〜?別にないよ。なんでそんなこと聞くの?」
言わないだけなのか・・・そう思って蘭世の気持ちを読み取ってみたが、
蘭世の気持ちに一点の曇りもなく、本気で首をかしげている。

「・・・・う、、なんでもねえ(俺の勘違いか?)」
ランゼにつられて深く考えすぎていたようで俊は自分が恥ずかしくなる。
(そういやそうだよな〜、俺はいつだってこんな風に気持ちを確認してんだから
不安に思っていたら気づくよな〜。
あのやろう・・・・俺にとんでもねえこと言わせやがって・・・・


ふ〜と安堵して俊はごろんともう一度草むらに寝転がった。
「何よぉ、教えてよぉ〜〜、言葉にしてくれなきゃわからないでしょ〜。」
「・・・・・・」
(うるせえ!ていうか、あいつが全部あの場で俺の言いたいことを全部言っちまったんだよっ!!
しかも、あんなに力説しやがって・・・・今更言えるか!!)
もう、向こうの王子様はいろいろ話してくれたのに!っと蘭世はほっぺたを膨らましていたが、
顔は笑顔のままだった。



「あ、そうだ、ねえねえ、あの、ランゼさんってどんな人だった?」
蘭世はふと思い立ったらしく突然そんなことばを口にした。
「お前と正反対だった」
「何それ〜どういうことよぉ〜。もう。あっちの人もみんなそういうんだから。。。失礼しちゃう!
シュン王子だって真壁くんなんかより、ず〜っと素直なんだからね!」
「悪かったな。どうせ俺は素直じゃねえよ」
「もうなによ〜開き直ってぇ!!」
蘭世はまたブゥとふくれてひざを抱えて俊の隣に座り込んだ。

俊は横目で蘭世を見ながらぷっと笑って言った。
こうやって側にいるだけで、心が解け合う・・・・
久しぶりに蘭世に会って俊の心は安堵の気持ちでいっぱいだった。
それだけでいい・・・。

「お前は、お前だよ。そして俺が俺でいられるのはお前がそこにいるからだ・・・」
そういって俊は自分の顔が真っ赤になる前に蘭世を胸に引き寄せた。
あわわといって蘭世は俊の胸に倒れこんだ。
「戻ってきてくれて・・・よかった・・・」
「・・・・・うん」
「・・・」
「・・・」
「真壁くんの心臓の音が聞こえる・・・」
「そうか?」
「・・・・ん」
(俺に言えるのはこの程度か・・・・)


しばらくしてから俊は蘭世の体を押し離して頭を引き寄せそっと口付けた。











      ****************





あとがき

ようやく完結しました。
長々と続きましたが、いかがでしたでしょうか。
書いてるうちに設定がころころ変わってきて、連載の難しさを改めて感じさせられました。
まだまだですな〜。やっぱり・・・。
つづけて読み直すのが怖い・・・・( ̄□ ̄;)!!
途中で勝手に手直ししなおしてるかもしれません(^^;)

一体だれが主役なのか最終わからなくなってしまいましたが、
蘭世×俊はどんな時代もどんな世界でも運命によって見守られているんだよっていうのを表現したかったのですが・・・。
蘭世×俊+シュン×ランゼ・・・・4人の想いが少しでも欠ければバランスが崩れてしまうんですね。
(一応説明)
もっと細かいシーンとか、蘭世×ランゼとか、俊×シュンとかのからみもかければと思ったのですが、
とてもスペース的及び内容的に限界を感じたので断念しました。
機会があればまた書きたいなと思います。

ラストはかなり苦戦しました。
どう終わっていいかわからずに、あ〜なんて中途半端・・・。こんなん出してもいいのかな。。。
少し言葉足らずだと思います。
行間を読んでくださいませ・・・(お客様に頼るな!!)




長編になりましたが、ここまで読んでいただきまして皆様ありがとうございました。
皆様が読んでくださっていることが私のエネルギーとなります。
ほんと皆様あってのkauranですので、この場を借りてお礼を申し上げたく思います。
ありがとうございました。
またいろんなテーマで連載できればと思います。
今後ともよろしくお願いいたします。o(^o^)o



kauran





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