Present For You
日が傾きかけた閑静な住宅街の一角にある、ちょっと洋な感じでちょっとお洒落なその店のショーウィンドウの前で
俊はじっと立ち尽くしていた。
中に入る勇気は未だ沸き起こりもせず、バイト帰りで立ち寄ってから
彼是20分近くは経っているはずだ。
幸い、ショーウィンドウの中に並べられている品は思ったよりも多く、
いっそもう、ここにあるどれかに決めてしまおうとしたものの、結局決まらないままのために
それほどの時間が経過してしまっているわけで・・・。
蘭世への誕生日プレゼント・・・。
それが俊がここにいる理由。
正直な話、プレゼントを探しに出たのは今日が最初ではない。
今までにも何度かいろんな店を回ってみたのだが、結局何を渡すか・・・という時点から
全く進まないままなのだ。
そして期日はついに今夜に迫っている。
このままここにいても決まりそうにもないし、違う店でも見ようかと俊は思った。
するとそのとき、あれ?っと言う声とともに、俊の顔を覗き込む男がいた。
「あんた・・・この前の遊園地で・・・」
「あ・・・」
その男は、先日蘭世と行った遊園地で、妙なきっかけで知り合った確か須藤とかいうヤツだった。
<COUNT GETの『NEW FRIENDS』参照>
「偶然だなぁ。何?彼女にでもプレゼント?」
須藤は俊の顔とショーウィンドウを見比べながら尋ねた。
「あ・・・まぁ・・・誕生日でな」
「へぇ。マジで?一緒。俺もだぜ。いつ?」
「今日」
「今日??また急だなぁ・・・」
須藤は右眉を上げて笑った。
「い、いいんだよ。そっちこそいつなんだ?」
「こっちは8月10日。ハトの日」
須藤はホッホーとハトの鳴きまねをしながら、ショーウィンドウの中を物色していた。
「まだ日にちあんのに、もう買うのか?」
「ん?あぁもう決まってんだ。ほらあのグラサン。翠のヤツ、アレが欲しいってわめきやがってさ。
ったく・・・生意気に注文だぜ」
そういいながらも須藤はまんざらでもなさそうで俊には楽しそうなぐらいに見える。
俊は須藤と一緒にいた翠というその彼女が、わめいている?姿を想像した。
容易に想像できるところが笑える。
やっぱり欲しいものを聞くべきだったかなと俊は後悔していた。
そしたらこんな風に悩み続けることもなかっただろうし、今頃はもう渡すべきモノを手にしていたことだろう。
妙なプライドと、ちょっとしたサプライズ感をガラにもなく抱いてしまったせいで、
何が欲しいのかを聞けずに、結局何も買えていないのでは何の意味もない。
「そっちは?もう決まってんの?プレゼント」
「・・・いや・・・」
「え?まだ?だって今日だろ?お前」
須藤がガクッと肩を落とす。
俊は須藤が出した案を(というか彼が今までに渡したものを)聞いていたが、
(そして指輪と聞いた時には今度は俊がガクッと肩を落としたりしたが)
結局ピンとくるものもなく、余計に迷ってしまうだけだった。
そして、別の店も見てみると言い残し、そのまま須藤に別れを告げた。
俊は腕時計を見た。
他の店を・・・と言ったものの、約束の時間までにはもうそれほど余裕はなかった。
今日、一応会うことにはなっているが、明日は一日デートをする予定にはしているし、
自分の思うサプライズはできそうにはないが、明日一緒に欲しいものを選びに行った方が賢明かと
俊は歩く方向を変え、自宅の方に向かった。
蘭世はアパートの方に来ることになっていた。
せっかくだったのになぁ・・・と俊は少し気が沈んだ。
プレゼントをまだ買っていないことに、蘭世が怒るとは思えないが、
喜ぶ顔を見たかったのは事実で、それができなかった自分に苛立ちを隠せなくて、
俊は重い足を引きずるように歩いた。
せめて花だけでも買うか・・・と思って通りがかりにあった花屋で一番蘭世らしい
白い花を花束にしてもらった。
そして自分でも変わったなと思う。
プレゼントに悩む自分も、花を抱える自分も、数年前までは考えられないことだった。
そして蘭世のことを思い浮かべる自分も・・・。
俊は走った。
無性に早く会いたくなって。
日が沈み、空がどんどん夜の色に変わっていく。
そして、アパートの前について、自分の部屋に明かりがともっているのを確認すると、
俊は気持ちが逸った。
そして、持っていた花束を能力で消した。
これぐらいのサプライズはありだろ。
ドアを開けると、蘭世がすぐこちらに気づいて迎えてくれた。
「早かったんだね。もっと遅いかと思ってた。」
「あぁ。まぁ誕生日だしな」
照れてちょっと視線をそらせたが、俊は蘭世がニコリと微笑むのがわかった。
こんなことでも喜ぶ蘭世を、こんなにも愛おしく自分が想っていることなんて、
こいつは知らないんだろうなと・・・俊はふと思う。
悔しいから言ってやらねえけど。。。
靴を脱いで俊は蘭世の前に立った。
蘭世はきょとんとした顔で俊を見ている。
俊はにやりと微笑んでその後、ぱっと花束を出した。
「わっ☆」
蘭世は目を丸くして花と俊を見比べている。
「誕生日おめでとう」
俊は言葉とともに花束を蘭世に差し出した。
「ありがとう〜〜〜☆すごい。手品みたいだね」
蘭世は満面の笑顔で答えた。
「プレゼントさ、何がいい?明日買いに行こうぜ。欲しいものがわかんなかったからさ・・・まだ・・・その買ってなくて・・・」
俊は頭をポリポリとかいた。
蘭世の答えがなかなか返ってこないので、俊はそのままの姿勢で蘭世に視線を向ける。
その拍子に蘭世が俊に抱きついてきた。
突然のことで俊は思わずバランスを崩したが、すぐに持ち直して蘭世を受け止める。
「プレゼントなんかいいよ。こうやって一緒にいてくれるだけでいい」
蘭世の言葉が俊のみぞおち辺りに響き、キュンとなる。
俊は蘭世の背中に腕を回す。
「遠慮してるともったいないぞ。バイトもしたし、今なら買ってやれっぞ」
蘭世は俊の腕の中で顔を見上げた。
何かを考えてるような顔をしている。
俊は蘭世の心を読みたい衝動に駆られたが、今日だけはやめとこう。誕生日だし・・・と気持ちを押さえる。
「じゃあねぇ・・・」
といって蘭世はまたうつむいた。そしてそのまままた俊の胸に向かって言葉を放つ。
「ギュってして・・・」
「は?」
「ギュってして欲しい・・・」
蘭世は持っていたままの花束をパサリと床に落とし、細い両腕を俊の背中に回した。
その力が予想以上に強くて俊は少し驚いたが、胸に響いてきた言葉とともに、
蘭世の心の声はもはや聞くまでもなく、俊の全身に力いっぱい語りかけてきて、俊は軽い眩暈を覚えた。
サプライズで喜ばせたかったのは自分なのに、逆にこちらが意表をつかれて、胸を鷲づかみにされた。
コノヤロウ・・・
そしてその気持ちに応えるように、俊は壊れるくらい強く蘭世を抱きしめた。
1ミリでも離れているのがもったいないくらいに、いっそこのまま一つになってしまいたいくらいに・・・
この気持ちをこれ以上どう表現すればいいのか俊はわからないまま、
ただただ、強く抱きしめた。
「そういえばさ、さっき、この前遊園地で会ったあの男に会ったぜ」
俊は蘭世を抱きしめたまま言った。
「え?あの須藤君?」
蘭世は俊の顔を見上げて、さっきとは少し違った驚きの顔をした。
「なんか、彼女も誕生日近いみたいだな。ハトの日だって言ってた」
「ハトの日〜〜〜???何それ」
蘭世は目をぐにゃりと曲げて首をかしげた。
「知るか」
ハトの日、ハトの日・・・と蘭世は俊の胸に顔を埋めながらつぶやいていた。
蘭世の頭の中はもうそのことでいっぱいになっているようで、ハテナマークが飛び交っているのがわかり、
俊はそんな蘭世がさらに愛おしくなって笑いながらまた蘭世を抱きしめた。
END
あとがき
蘭世ちゃんの誕生日なので、蘭世ちゃん側で書こうとしてたんですが、
kauはやはり俊視点が好きなので結局こんな形になっちゃいました。
悩む王子。
想う王子。
好きだな。。。
(自己満足)
でも、読んでみたら王子な感じがしない・・・(滝汗)
最近のうちの王子はもう完全にキャラが変わっちゃってます・・・(涙)すみません・・・。
しかも、突然終わる・・・(笑)
そこで、kauの思考が途切れるからデス・・・^^;
途中、「天使なんかじゃない」の二人を出したのは誕生日祭りということで・・・kauのお遊びです。
読まれていない方にはチンプンカンプンだと思いますが、申し訳ありません。
たーこさんのリク作品をちょっと借りてしまいましたデス。すみません。
ま、時間軸では続きということで☆
でも、「晃」と表現しなかったのは俊視点だからなんだけど、何度も晃と書きそうになった。
やっぱ晃は晃だよな。。。須藤と書くとちょっと違う人っぽいかも。
ちなみに、ハトの日をご存じない方のために。。。
8月10日の語呂合わせというのは気づいていただいてるかと思いますが、
「天ない」の原作の中で、晃が誕生日だとアピールする翠に「ハトの日」だと茶化すシーンがあるのでした。
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