二人のカウントダウン




   


     *注意*
  
     この作品は「らんま1/2」の二次創作になっています。
        ときめき関係はほとんど出てきませんので悪しからず。
        「らんま1/2」の簡単な説明はこちらを参照にしてくださいませ。








クリスマスも終わり、年末の準備で慌ただしい空気が街中を駆け抜ける。

今日はもう大晦日。

かすみから頼まれた買い物を済ませ、あかねは手に持った赤いマフラーをしげしげと見つめていた。

「伝説のマフラーねぇ・・・」

一見何ということのない普通のマフラーに見えるのだが、先ほどの行商人が目をキランと光らせてそう言いのけた。



        ◇       ◇       ◇



「そこのお嬢さん。マフラーいらんかね?」

「マフラーならあるからいいわ」

あかねは足をとめることもなく、

道端で店と呼べるほどのものでもない、ほんの小さなスペースで物売りをしている年老いた行商人の前を

去ろうとする。

「ちょい!待ちなされ!このマフラーは何と恋に効く魔法の『伝説のマフラー』なのじゃ!」

あかねはぴくっと頭を動かし立ち止まった。

「恋の魔法?」

頭だけを振り向かせ、あかねは眉間に皺を寄せた目で

怪しい行商人と彼が差し出した赤いマフラーを見比べた。

「そうじゃ。年が明ける瞬間にこのマフラーを意中の男と一緒に巻くと

その恋は成就すると言われておる。。。」

あかねはいつの間にかその行商人への前に座り込んでじっとマフラーを凝視していた。

「ほんとなの?」

上目遣いであかねは睨みつける。

「ほっほっほ。信じるも信じないもお前さん次第じゃが。騙されたと思って買ってみればよい。

お嬢さんはかわいいから安くしとくよ」

「いくら?」

「なんと言っても伝説のマフラーじゃからの。本当は10万円!じゃが、今日はおおまけにまけて1000円!」

「高い!300円!」

「950円!」  「350円!」・・・・・



         ◇      ◇      ◇



結局500円で買わされたマフラーをあかねは立ち止まってもう一度じっと見つめた。

「意中の人か・・・」

一瞬、脳裏にチャイナ服のおさげ髪姿が浮かぶ。

「ふっ・・・ばかばかしい!何であたしがアイツとマフラーなんか巻かなきゃいけないのよ!」

あかねはそのマフラーをバッと袋に詰め込んで家路に向かうために歩き出す。

しかし、数歩歩いた後、もう一度立ち止まった。

あかねの横を白いマフラーをつけた背の高い男性とお揃いと思われる白い手袋をした女性が通り過ぎる。



「真壁くんとカウントダウンのイベントに行けるなんてすっごくうれしい!」

黒い長髪の彼女が嬉しそうに彼に話しかけている。

「そっかぁ?人が多いだけじゃねえか。」

彼女に言われてしぶしぶついてきたというところだろうか・・・

「でもでも、年越しで一緒に過ごせるんだもん♪」

「家でテレビ見てても同じだろ」

「いーの!一緒にイベントに参加するというところに意義があるんだから!」

「へいへい」

そういいながらもその彼は、しがみつかれた腕も、クルクル変わる表情で話しかけられるのも

まんざらではなさそうで、あかねはその幸せそうな二人をじっと見送った。



カウントダウンか・・・

一緒に過ごせたら・・・楽しい・・・かな・・・?



        ◇      ◇     ◇



自宅に帰ると、居候の乱馬は道場の掃除をさせられていた。

今日は珍しく言うことを聞いていそうである。

あかねが帰ってきたことに気づくと乱馬はシュタっと近寄ってきた。

「遅かったじゃねえか。ったく、俺一人でやらせやがって・・・ん?何持ってんだ?」

乱馬はあかねの持っている紙袋に目をやる。

「あ、あの・・・これは何でもなくて・・・それより・・・」

あかねは袋を後ろ手にまわして隠した。

「今日の夜さ、あの・・・一緒に・・・」

「ん?今日?」

あかねがその続きを言おうとしたとき、ドッカーーーン!という大きな音とともに、道場の壁がくずれた。

「乱馬♪今日の夜は一緒に過ごすね。迎えに来たね☆」

そういいながらシャンプーが乱馬の首元に纏わりつく。

「げっ!シャンプー!せっかく拭いた壁壊しやがって!おいっ!離れろよ!」

「こんなとこであかねといるより、私と一緒にカウントダウンライブに行くね☆」

「こんなとこってどういう意味よ!」

「そういう意味ある」

「乱馬サマ〜〜〜〜♪」

あかねとシャンプーが言い争いをはじめかけたとき、どこから飛び出してきたのか、レオタード姿の小太刀が

二人の女の間に割り込んだ。

乱馬は瞬時のところで巻き疲れそうになったリボンを交わす。

「小太刀・・・お前・・・そんなカッコで寒くねえのか・・・?」

「私は乱馬さまへの愛で体が燃え盛っておりますの・・・オーーーッホッホッホ!!」

「小太刀!あんたまで何しにきたのよ!」

「新年を迎える瞬間・・・それは愛する殿方とともに過ごすことが女としての一番の幸せ・・・

さっ!乱馬サマ!私と一緒にうちで愛の儀式を致しましょう!」

「え、遠慮しとくゼ・・・」

「そうおっしゃらずに!!」

その時、じりじりと乱馬につめよる小太刀の腕に向かって、ヘラが勢いよく飛んできた。

「小太刀。乱ちゃんがいやがっとるやないか・・・」

「ムム。やはり現れましたね・・・右京。」

「乱馬は私と過ごすね!」

「違う。うちや。」

「私でございます」

「ちょ、ちょっと!3人で何よ!」

「なんや?あかねちゃん、おったんかいな」

「いるわよ!ここはあたしんちなんだから!」

「とにかく、ここから乱馬を連れ出すね!あかねのところにいる必要は全くないね」

「そやな。乱ちゃんを捕まえてからその後はどうするか決めよやないか」

「な、なんでそうなるんだっ!!」

そういい残すと、一目散に乱馬が逃げ出す。

「逃げますわ!」 「追いかけるで!」 「乱馬待つよろし!」

「ちょ、ちょっと!待ちなさいよ!」

あかねの呼びかけもむなしく、慌ただしく台風が去ったような妙な静けさが残る。

しーんとなった道場にあかねのため息だけが響く。

「こんなマフラー・・・一緒に過ごせなきゃ意味がないじゃない・・・」

バシッと袋を床に投げつける。

その時袋に入っていたマフラーが顔をのぞかせた。

あかねはじっとそれを見つめて、黙ってそれを取り上げて胸に抱いた。



        ◇      ◇      ◇



23:55・・・

あかねはマフラーをぐるぐると首に巻いてベランダに一人立ち、

遠くから聞こえる除夜の鐘を聞いていた。

右前方の方からはカウントダウンのイベントが行われている明かりが見える。

「・・・さっむーい」

マフラーに顔を埋めながらあかねは澄み切った星空を眺めた。

乱馬はまだ帰ってきていない。

「結局、こうなるんだから・・・」

まだ追いかけられているのだろうか。

それとも誰か一人に捕まって、もう一緒に年明けを過ごす準備をしているのだろうか・・・。

一緒に過ごしたいなんて・・・思わなきゃよかった・・・

「乱馬のバカ・・・」




あかねがそうつぶやいた時、

「誰がバカでい」

ヨレヨレな体を不規則に揺らしながらも乱馬が1階の屋根を上り、ベランダによっと飛び上がってきた。

「ら、乱馬・・・!」

「ったく・・・、あいつら・・・こんな年末まで追っかけまわしやがって・・・」

息をゼイゼイ荒げながら、乱馬はうへぇ〜とベランダの桟によりかかった。

「解放されたの?」

「この俺が簡単に捕まるかっての」

「時間かかってるじゃない」

「うるへぇ」

「こんなとこにいるより、シャンプーや右京や小太刀のとこにいたほうが楽しいんじゃないの?」

あ、嫌味な言い方・・・

自分で言ってしまったことに可愛くない。。。と後悔する。

「だって、お前が今日の夜とかなんとかって言いかかけてたからさ・・・」

えっ。。。?

乱馬は嫌味など全く通じていなかったように軽く流してそう言った。

「・・・覚えてたの・・・?」

別にはっきり言ったわけじゃないのに・・・

「え・・・ま、まぁな/// あっホラ!覚えとかなきゃまたお前怒るだろ」

何か突然動揺しだす乱馬が可愛く思えて、あかねはクスッと笑った。

「ハックショイッ!」

寒空に汗をかいて体が冷えたのか乱馬が大きなクシャミをした。

あかねは、自分の首にかけていたマフラーをはずして乱馬にそっとかけた。

「あっ・・・」

「新年早々、風邪もないでしょ」

でもさすがに深夜の空気は首につらい。

あかねはぶるっと体を震わせて首をすくめた。

「んじゃぁ。一緒に巻こうぜ」

乱馬はあかねをそういって引き寄せ、マフラーの端をあかねの首に巻きつけかけた。

「あ、い、イヤじゃなかったら・・・だけど・・・」

無意識にした行動だったようで、乱馬は突然慌てだす。

あかねはパチパチと目をまばたきさせたが、そんな乱馬の行動が胸にじんとしみる。

乱馬・・・ありがとう・・・

「・・・うん♪一緒に入る」

あかねはマフラーの端をくるっと自分の首に巻きつけた。

「・・・あったかい・・・」

二人の間にしんとした空気が流れる。

だが、その沈黙が何故か今日は心地いい。

鼓動が大きく鳴ってるが、それが自分のものなのか、

乱馬のものなのかよくわからない。

ただ、同じ速度でドクンドクンと血を動かしている。



カウントダウンのイベント会場の方から、一斉にカウントの掛け声が始まった。

10・9・8・7・・・・・・

乱馬が右手をあかねの背中に回してぎゅっと引き寄せた。

4・3・2・1・・・・

「「「「A HAPPY NEW YEAR!!!」」」」

おびただしい数の新年の挨拶の声が街中に響き渡った。

花火が打ち上げられて、空がパパパパっと明るくなる。

「新年か・・・」

「あけましておめでとう。乱馬」

「おぅ。今年もまぁヨロシク・・・な///」

「うん」

今年は、もっと素直になれるかもしれない・・・

いや、もっと素直になろう・・・。

この赤いマフラーがきっとそうさせてくれる・・・。

「そういや、今日の夜ってなんだったんだ?」

乱馬が突然思い出してそう尋ねる。

「えっ?・・・それは・・・」

もう叶っちゃったからいいんだけど・・・・

あかねは乱馬の顔を見つめた。

乱馬はその疑問がまだ拭えないようできょとんとしている。

あかねはマフラーをぎゅっと握り締めた。

至近距離に乱馬がいる。大きく心臓がなりだす。

でもでも・・・

あかねはそっと目を閉じて、乱馬に口付けた。

うわっ!やっちゃった!!

離すタイミングは・・・?

どうしようか迷っているうちに体が小刻みに震える。

そんなあかねの様子を知ってか知らずか、乱馬はもう片方の腕もあかねの背中に回して、そっと抱きしめた。

どちらからともなく、そっと合わせていた唇を離した。

潤んだ瞳を開くと乱馬はあかねをみつめていた。

「やっぱり、新年を迎える場所は・・・ここがいいな」

乱馬がにこりと微笑むのを見て、あかねも一緒に微笑んだ。

花火がまだ続いて夜空を照らしている。

赤いマフラーの効き目があったのかどうか・・・

信じるも信じないも、自分次第・・・・・・

ただ、信じれば、願いは叶うのかもしれない・・・













あとがき


ジャンル外にもかかわらず、
読んでくださってどうもありがとーございます☆

しかもうわっ!甘。砂吐き状態ですね。

ここはときめきサイトだっつーの!と自分に喝!
若干、心が痛んだので、完全にエキストラ状態で俊蘭出しました。
ちなみに小設定としては、二人の身に付けていたマフラーと手袋は、俊が人間になって
蘭世の元を離れる前に、蘭世が雪の中バーゲンで買ったアレです。
アレを使うにはニット帽子をかぶった曜子イヌも必要だったんですが、
面倒になってやめた・・・。
二人で楽しそうに歩いたら、きっと曜子イヌはガルルルと邪魔しちゃうし(笑)
そしたら話変わっていっちゃうし(笑)

カウントダウンの話は正直俊蘭で考えていたんですが、どうも乱あの方が
イメージしやすくって結局こっちにしちゃいました。
ひさびさの作品だったのに、ジャンル外でホントすみませんでした。

でも読んでくださってどうもありがとーーーございました!

今年もヨロシクです。







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