透明な昼下がり 11月半ばの小春日和の中で、爽やかで心地よい風が頬をかすめる。 校内の芝生を敷き詰められた少し小高くなっている小さな丘に、一本の大きな大木が立っており、 その下の木陰は、昼食後の俊のわずかな休息の場となっている。 今日も俊は、その木の下に仰向けに寝転んで、持ってきたボクシングの雑誌を顔面にかぶせ もう11月だというのに、未だ冬の気配を感じさせない穏やかな日差しとそれに伴う風を浴びて うつらうつらと意識を揺るがせていた。 俊はこの秋のこの時間帯が好きだ。 少しずつ冬支度を始めている草木たちや、春とは少し違う物寂しげな風の息吹が たぶん、自分の波長とどこか似通っているのだろうと思う。 今日は天候も良く、こんな日は午後の授業をすっぽかして、このままうとうととまどろんでいたい。 そんな俊の心地よい眠りは突然の衝撃によって妨げられた。 「オッス!真壁。」 呼びかけと同時に顔面上にあった雑誌がバサッと取り払われ、 急激な日差しに俊が細目を開けると、そこには日野克のにこやかな顔があった。 「っんだよ、日野。起こすな!」 俊はジロリと日野を睨みつけた後、横向きに体の位置を変えそのまま背を向けた。 「ああもう、お前ってヤツはこんな気持ちのいい日にこんなとこで、つまんねえヤロウだな」 「こんな気持ちのいい日だからだ」 俊はそのままの体勢で日野の言葉に答える。 日野克。 年は1コ下だが、事情があって俊はまだ1年生のため学年では1年先輩になる。 その事情を知ってか知らずか、ただ単に1年だと思っているのか、それとも誰に対してもこういう態度なのかはわからないが、 日野は俊に対して大きな態度をとっている。 いや、実際には大きな態度というのは言い過ぎで、言ってみれば対等なのだろうが、 中学時代には俊に対してこういう普通の友達のような態度をとってきたものはいなかったものだから、 俊にとってはそういう印象で映る。 中学時代なんてものは、同級生や後輩はビビってるし、先輩は威圧的な目を向けてくるしで まともな同性の友人なんてものはいなかったに等しい。 この学園に入学して、男子の少なさ、そしてその男子たちのひ弱さを目にしたときには、面食らったものだが、 そんな中での日野との出会いは、正直俊をかなり変えたように思う。 それは全く悪い意味ではなくて、 日野のその接し方は俊にとっても決して嫌なものではない。 ゾーンとの一件が落着して、のんびりといろんなことを考える余裕ができてから、 自分と日野の関係を見たとき、 あぁ、これが友達ってやつなのかもな・・・とふとガラにもないことを考えたりして 俊はフンと鼻で笑ったりした。 「おっ?テニス部が昼練してる。いいねぇ。ほら、真壁も見てみろよ」 日野は俊の隣に寝転びながら両手で頬杖をつき、 眼下に見下ろせるテニスコートを眺めてはニヤニヤしている。 俊はそのまま無視して目を閉じていたが、日野は「なぁ。なぁって!」といって俊を揺り動かした。 「ったく、うるせえな。興味ねえよ」 「お前〜、そんなことでいいのか?もっと青春を謳歌しろよ」 「お前こそ、そんなことだと会長さんに愛想つかされるぞ」 「それはそれ。これはこれだよ。」 「ハイハイ」 「お前こそ、江藤だけだとあきねえのかぁ〜?」 「別に」 「うわっ☆真壁くんったらモテるのに一途なんですねぇ・・・ そんな真壁さんは江藤のどういうところに惹かれてるのかな?コノッコノッ」 そういって日野は俊のわき腹を小突く。 俊はしばらくはされるがままにしていたが、あまりにもしつこく日野が小突いてくるので、 とうとう閉じていた目をパチリとあけ、ムクリと起き上がり 「うるせぇな!関係ねぇだろ!!」 と、そのまま日野の首を腕で絞めた。 「ぐ、ぐるじぃ・・・」 ギブギブッと言いながら日野は目を開けるとあっと声を漏らした。 「江藤だ。」 そういいながら指を指す方向に俊も思わず目を向ける。 クラスメートの女生徒とノートの束を抱えて、蘭世が何やら楽しげに笑いながら渡り廊下を歩いていた。 楽しそうなその笑顔がキラキラっと光る。 申し訳ないが、隣にいる女子は目に入ってこない。 その笑顔は普段自分の側にあるもので、 こんな少し離れた距離から見るのはかえって新鮮だったり、 また、その笑顔が自分の知らないところにも存在することに、妙に嫉妬心を抱いてしまったり、 俊の心境は曖昧で、複雑だった。 ちょうど日差しにかかるところを通り過ぎたときなんか、 この心地よい太陽の光線が、蘭世の透明なくらいに白い頬をそして風によって気ままに流れる髪をキラキラと照らして、 そのたびに俊の胸をドキリとさせる。 アイツの姿なんか何度も見てきてるのに、この気持ちはなんなんだ・・・。 自分の中の気持ちも透明なくらいに真っ白になって・・・。 そのまま、能力を使ってでもこの腕の中に引き寄せたくなる。 そして、「もぅ!」と怒る顔が見たくなる。 そんなとき、いつの間にか力が緩んで俊の雁字搦めから逃れた日野が パッと目の前に顔を出した。 「ふふ〜ん・・・に・や・け・す・ぎ!」 どっちがだと言いたくなるほどにやけ面を俊の前に出して、日野は俊を指差して笑っている。 「・・・・・・(怒)」 俊は「殺す」と小さくつぶやいてさっきよりも強く日野の首を締め付けた。 「わー、ギブギブ!!」 「うるさい」 「あれ?あそこで騒いでるの、真壁くんと日野さんじゃない?」 日野の悲鳴?に蘭世とその隣にいた友人が気づきそちらに目を向ける。 「あ、ほんとだ・・・何やってるんだろ・・・」 半分抱きついて、じゃれているようにも見える二人を見ながら、蘭世はクスリと肩をすくめながら微笑んだ。 11月の昼下がり。 大人になりきれない男が二人。 冬支度を始めた風がその間を笑いながら通り過ぎた。 <END> あとがき かなり、即席で書きました。 でも男二人の感じで結局終わらせてしまって・・・ あまり綺麗じゃなくなった・・・(ガクッ) 綺麗なイメージのお題なので綺麗なシリーズでいきたかったのに 早くも2作目で玉砕デス・・・。 取り立てて何が書きたかったのかもよくわからないし・・・。 そういうシーンの絵が頭に浮かんでただけなので・・・(ガクッ) |