SCENE
ご注意

この作品は、パラレル小説です。
登場人物はときめきのキャラが出てきますが、
内容設定が全く原作とはかけ離れています。
イメージを崩される可能性がありますので、
お読みになる際には、お気をつけくださいませ。
少し肌寒い空気がより一層散り行く桜をきらめかせる。


少し早く着すぎた薄着のサマーニットの袖口から出た白い腕を両手のひらでさすりながら、
蘭世は新しい校内に足を踏み入れた。





おろしたての靴を履き、おろしたてのカバンを腕にかける。
そしてその上からおろしたての薄いピンクのコートをかけて、
多くの学生が行き交う広いキャンパスを足取り軽く蘭世は歩き、講義に向かう。








心が少し躍っていた。
自分ではきづかないほどのものだったが、日に日に変わっていく自分にはうすうす蘭世も気づいていた。



彼と出会ったのも、そんな何もかも新しいと感じる世界を味わいだしたそんな春の頃だった。




















入学して2日目。

教室の入り口で履修届を受け取り、蘭世は階段状になった大教室をぐるりと見渡して空いている席を探した。



「あ!蘭世!こっちこっち!!」
高校時代からの友人で、大学も同じ学校に通うことになった楓が、うろうろしていた蘭世を見つけ、
後ろの方から大きく手を振り呼んだ。



「よかったー。楓ちゃんに会えて〜。相変わらずすごい人数ね」
蘭世は楓の元にかけより、隣の席に落ち着いた。



蘭世たちが入学したこの大学は総合大学で、たくさんの学部があり、学生の数も非常に多い。
蘭世たちが所属する経済学部にも、一学年に15クラスほどあるくらいで、大学の総学生数は
一体どれくらいなのか、見当も付かないほど、キャンパス内は一つの町を成していた。











大教室内は受講する講座をめいめい考えたり、友人達と示し合わせたりする学生達でごった返し、
それぞれが、新しく始まった学生生活に心ときめかしているように活気付いていた。



「楓ちゃん、その講義とる?」
蘭世はすでに記入しかけていた楓の履修表を覗き込みながら尋ねた。
「水曜は休みにしたいから、ここはあけておくでしょう?
火曜と木曜は必修の語学と原論があるから、できるだけこの日にかためちゃいたいんだけど・・・・」
楓は表をペンの後ろで指しながら、説明する。
蘭世もそれをふんふんを参考にしながら、
自分の履修届と、講義内容が記された薄い冊子を見比べて、一週間のスケジュールを組み立てていった。












そんな時、後ろから誰かがトントンと肩を叩く手に気づき、蘭世は振り向いた。

「わりぃ。ボールペン貸してくんねぇ?」
後ろの席には初めて見る男性の顔があった。



その男は片手を自分の鼻の前にまっすぐにかざし、少し申し訳なさそうに微笑みながら、蘭世を見ていた。

きりっとした眉、大きくて鋭い眼差し、すっととおった鼻筋、うすい唇・・・・・・
髪はそんなに染めていなさそうだが、今風の髪型がセンスのよさを物語っている。
いわゆるハンサムといった整った顔立ちに蘭世は一瞬見とれた。


「え?あっボールペン?ちょっと待って・・・・・・」
蘭世はハッと我に返って、ビニール製のペンケースから、ボールペンを一本取り出して、
その男にハイっと差し出した。

「サンキュ」
その男の人なつっこい笑顔につられて、蘭世も笑顔を返す。


自分に向けられた笑顔はいたって普通のものであるのはわかっていたが、蘭世の心はなぜかドキリと動いた。
その笑顔があまりにも自然に蘭世の心に入ってきたのである。
蘭世はもう一度微笑んで元の姿勢に戻した。



突然現れた大きな存在を背後に感じながら、蘭世は履修届の続きを記入し始めた。
もう何も考えることなしに、ひたすら楓の書き上げたものを単調に写していた。
楓は他愛もない話題について何か話していたが、蘭世はそれを聞こうとしてもなかなか耳の中にとどめておくことが出来ずにいた。
なぜなら、蘭世の耳は、後ろから聞こえる少し低めのとおった声を探し出して拾っていた。





名前・・・・・なんていうんだろ・・・・・



蘭世はようやく自分の思考力が戻ってきて、そう考え出した時、がたがたと後ろから席を立つ音がした。


蘭世はパッと振り返ると、先ほどの笑顔のままで男は蘭世から借りたペンを差し出した。
「あ、これサンキュな。助かった・・・んじゃ」
そういって男はさっと手をかざし、隣に座っていた友人と思われる男2人とともに去っていった。




「あ、あの・・・・」
蘭世の発した声は届くことなく、宙に消えた。
去ってゆく背中を蘭世は眺めていた。
「蘭世・・・・・・?」
楓の声が蘭世をココに呼び戻す。
「え?あっ何?」
蘭世はその声にハッとして楓との会話に戻った。
だが、視線はまた遠く離れてしまったその背中を探し出して、見つけるとそのまま後を追いかけた。
楓は会話をしながらも、蘭世の視線の行方に気づき、自分の話に上の空の蘭世を
心配そうに黙って見つめた。









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