『君との距離、あと何mm?』


  後 編





   アンケートときめきの名シーンより
    第5位 「8巻のペンダントを直した後のキス未遂シーン」
   からヒントをいただきました。
   俊の気持ちを中心に・・・って感じです。
















先ほどの夕食の時間、、俊はよりによって蘭世と真正面に座らされ、

味覚も失うほどの緊張感でいっぱいだった。

目も合わせられないほどの気まずさが二人の間に流れていたのに、

ふとした拍子にバチッと目が合ってしまったりするのは、何故なんだろう。

その緊張感は蘭世も同じだったようで、スープはひっくり返すわ、お箸は床に落っことすわ・・・

動揺ぶりは俊以上だった。

せめて自分だけはと冷静を装うものの、目の焦点も定まらない状態で、

望里と椎羅はともかく、感覚の鋭い鈴世なんかは、ちらちらと俊と蘭世を見比べ、

それに気づいた俊に、わかっているのかどうなのか意味深な目で、サインを送ってくるような始末で

俊は口の中に料理をかきこむだけかきこんで、ダイニングから飛び出してきてしまった。



いつまでもあの状態でいられるわけでもないし、動揺しながらもこの部屋に入ってこようとする蘭世には

ある意味、尊敬の念も抱いてしまう。

たぶん、自分からはどう動いていいかすらわからないのだから。。。

俊はふぅと呼吸を整えてからドアを開けた。





「な、なんだ?」

声がうわずる。

しかし俊のそんな様子には気づいていないのか、蘭世はうつむいたままだった。



「あ、あの・・・さっきの話なんだけど・・・」





・・・・・コイツ・・・また俺を煽る気か・・・・??





心臓がドクンと跳ねる。




「家を出て行くって話・・・・」



ああ・・・そっちか・・・。

「いつ頃とかって決めてるの?」

少し拍子が抜けて俊はベッドにドサリと腰をかけた。



「・・・いや・・・まだ具体的には・・・」

「・・・そっか・・・よかった・・・」

「え?」

「・・・その・・・もう・・・すぐとかだと困っちゃうなぁ・・・なんて・・・」

エヘヘと蘭世が笑う。

「ほら・・・私にも心の準備とか・・・いるし・・・」

その笑顔に俊の胸がキュンと締まる。



いつ頃からこの軋みを覚えたのだろう。

まだ人間だった頃・・・

そんな前でもないのに、もうずっと昔のことだった気がする。

そこに突如として自分の前に現れた不思議な女。

泣いて、笑って、気がつけばいつもそばにいて・・・

何故か守らなければいけないような気になって・・・

コイツとどうなりたいなんて、考えたこともなかったのに、

正直、あのカルロとかいうルーマニア人が現れてからは、いやな胸騒ぎさえ覚える。

この胸の軋みも、胸騒ぎの意味も・・・



「真壁くん?」

ふっと無防備に覗き込んでくる蘭世に俊は慌てて視線を逸らす。



「ま、まぁ・・・働き口とかも見つけなきゃいけないし、そうすぐってわけじゃねえけど・・・」

「・・・うん・・・」

「・・・・・・」

「・・・・・・」

沈黙が流れる。胸がそわそわして落ち着かない。

このままだとまた・・・

もう一度積み上げかけた堤防が崩れていきそうになる。






「私・・・」

「・・・・・・」





「真壁くんのことが大好きよ・・・・・・」

「・・・・・・」

「知ってると思うけど・・・」

そういって蘭世が笑う。





「さっきの・・・・私・・・・ちょっとだけ・・・・自信持っていいのかな?」

俊は蘭世にチラリとだけ視線を戻す。

顔を赤くしているが、なんとなく嬉しそうで、それがまた微笑ましくて

こういうところにどうしても心が惹かれていってしまうのだ。

運命なんか信じないけど、

コイツのことになるとまるで自分で自分を止めることができなくて・・・。

こんな状態をどうやって説明すればいいのだろう。






「というより、持つなと言われてももう遅いんだから・・・じゃあね」

そういって背を向けた蘭世の腕を俊は思わずつかんだ。

「え・・・」

と、目を見開いた蘭世が振り返るのと同時に、俊は後ろから蘭世を抱きしめた。

一度出した手は引っ込めることもできずにもうほぼ無意識にそうしていた。



どうしてコイツはこんなにはっきり言ってのけるんだろう・・・



俺が・・・どんなにがんばっても・・・

どんなにすごい能力を手に入れても・・・

どうしてもできない・・・



できないのなら、できる方法で、できるだけのせいいっぱいで

想いを伝えなければ・・・

いや、伝えずにはいられなくて・・・




心臓は先ほどと同様鳴り響いて蘭世にまで伝わってしまいそうだったが、

もうそんなことなんてどうでもよかった。

このまま・・・

誰もいないところにいっそ連れ去ってしまって

この煮えたぎる血流を沈めることなく自分のものにしてしまえたらなんて・・・



反射的に腕の中に収めた蘭世の鼓動も同じように激しく動いているのがわかった。

自分の鼓動を、そして蘭世の鼓動をどうにか抑えてやりたくて

俊は強く蘭世を抱きしめた。

そして・・・

滑らかな黒髪にそっと唇を当てた。。。。

それが・・・

自分を保てるせいいっぱい・・・







この女が自分にとってどれほど必要か、どれだけ大事か・・・

今やっとそれを受け入れられたのかもしれない。

感情に身を任せることだって、たまにはしてみてもいいのかもしれない。

まだ、はっきりと蘭世にむかって言葉に・・・なんて照れくささが大いに邪魔してできそうにないが、

自分の中にそういう気持ちがあるってことくらいは

もう認識せずにはいられないのだ。

それくらい、大きな存在・・・






「持つななんて言わねえよ・・・」

「え?」

「わかったか?」

「は、はい・・・」

「わかったら、さっさと出てけ」

そういって俊は蘭世を離すとドアの方に押しやった。

腕の中からぬくもりが消えてなんとなく物足りない気になる。

「え?ちょ、ちょっと・・・」

「これ以上ここにいると身が危険だぞ」

「えっ゜・・・///」

「ほら、じゃあおやすみ」

部屋からかろうじて蘭世を追い出した俊はドアに背を預けたまま、ずるずるとへたれこんだ。





「本気で・・・やばかった・・・俺・・・」





天井を仰ぐ。



「やばかったけど・・・少しは・・・伝わった・・・か?」



気づいたからには、認識したからには、

突発的なことで彼女を傷つけたくないし、傷つけないようにするのも自分の責任なんだから・・・



マジ出てって精神から鍛えなおさねえと・・・



俊はまだ乙女のようにバクバクしている心臓を押さえながら

そしてどうしてもこんな時だけ優等生な自分のせいで一歩先には進めないのを少しだけ悔やみながら

そう自分に言い聞かせたのだった。







<END>







あとがき(という名のただのときめきオタクの語り)

いかがでしたでしょうか?
楽しんで読んでいただけたらとっても嬉しいですvv
でもすみません・・・ラスト・・・弱いです・・・(泣)

あのキス未遂のシーン。
ときめきファンなら誰もが萌えるシーン。
kauも例外ではありません。

コミックスを持ちながら一緒に聞いていただくとありがたいのですが(オイ)
kauは、
王子の「さ できた」のところからの一コマ一コマを
kauは10秒くらいかけながら読みます。
その一コマと一コマの行間をしっかり妄想しながら読むんですね〜。
だ・か・ら・・・
kau宅の王子はよく語るわけです。
kauの妄想がパンパンに入ってしまっているからです。
王子・・・こう考えてたらいいな〜って。
たぶん、原作に忠実な王子であるならば、こんなことまで考えてないでしょうが・・・^^;
女々しいもんね(じゃあ書くなよ)

ちなみに私は恋先生さすがだな♪って思うのは
瞳の部分のコマが非常に上手いなってこと。
目力の出させ方が抜群だなって☆
技術的なこともそうですが、瞳のコマが入るタイミングももうステキすぎなんですvv
私が王子を好きなのも、この完全なる瞳の強さに溺れちゃっているからなのです〜☆

ああ・・・ときめき・・・☆☆

こんなの王子じゃない!っていう苦情は
ご勘弁ください・・・(逃)





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