想いが重なるとき
「ランゼ殿、ランゼ殿!」
「・・・ん・・・?」
蘭世は誰かに揺り起こされて気がついた。

ぱちぱちっとまばたきをして起き上がる。
「あれ・・・ここどこ?」
辺りを見回して確認する。
「・・・想いが池・・・?」


「ランゼ殿、大丈夫ですか?」
「え?アロン!・・・ということはやっぱりここは魔界?」
「どうなされたのです、こんな所で・・・兄上が城でお待ちでしたぞ?」
蘭世を起こしてアロンは尋ねた。
「え?真壁くんが?ってそうだ!駅に行く途中だったのに・・・なんで私こんなとこにいるの?
あっでもよかった、真壁くんお城にいるんだ」
蘭世は半分独り言のようにアロンに尋ねた。
「マカベとは?私は兄上のことを申したのですが・・・」
「は?だから真壁くんのことでしょ?それにどうしたのー?アロンってば、そんな口の利き方しちゃって」
「・・・???ランゼ殿こそどうなされたのです。そのような格好ですし、人間界にでも行ってこられたのですか?」
「ん?何言って。。。私はずっと人間界にいるじゃないの」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「何か話が食い違うよね」
「はあ・・・」
2人ともわけがわからないまま首をかしげる。



「ここって魔界よね。ここは想いが池、そしてあなたはアロンよね?」
「いかにも。で、あなたはランゼ、ランゼ・エトワール殿、兄上の婚約者ですよね」
「!!!えーーーーっ??こ、婚約者〜〜?やだ、アロンったらアロンったら
ま、まだそんな約束してないも〜〜〜ん」
アロンの突然の言葉に蘭世は慌てふためいた。
「は?いまさら何を言っておいでなのです。ずっと前から決められているではありませんか」
「えーーーーーっ!!!☆♪▽■◎×・・・・・・どうして!?いつ?いつ決まったの?
何で?」
蘭世は支離滅裂な言葉を連呼して叫ぶ。

「・・・・・」
いぶかしげにアロンは蘭世をじっと見た。
「怪しいな・・・とにかく城に来なさい」
そういってアロンは蘭世の腕をつかんだ。
「えっ!?ちょっと!!」
アロンは蘭世をひっぱってテレポートした。





「兄上!兄上はおられるか?」
城に瞬間移動したアロンは大声で叫んだ。
「アロン様!どうなされましたか?そんな大声で・・・おやランゼ様もご一緒でしたか?」
サンドが広い廊下を走ってきた。
「サンド、兄上はどこだ?ランゼ殿がおかしい。ランゼ殿がランゼ殿でない!!!」
アロンが答えた。
「は?私には・・・・ランゼ殿に見えますが・・・」
サンドは蘭世を見回しながら答えた。
「ランゼ殿がこんな格好するか。兄上を呼べ。メヴィウスもだ」
「は、はい・・・」
「お前はこっちだ。こい・・・」
そういってアロンは蘭世をひっぱった。
「いたいーーーってば」
(もうどうなっちゃってるのーーーー?え〜ん、真壁くん!!!)






「ではお前はランゼではないというんだな」
シュンが尋ねた。


客間に通された蘭世はアロン、メヴィウス、サンドそしてシュンに囲まれて尋問を受けていた。
「・・・・」
(え〜ん、真壁くんが真壁くんじゃない〜〜〜。)
頼みの綱として期待していたシュンの姿はいつもの俊の姿ではなく、
王家の一員としての風格は十分にあった。
マントを翻しながらシュンはソファーに座り、蘭世の返事を待った。



蘭世はここに至るいきさつを話した。
自分が精霊族ではなく吸血鬼であること、人間界に住んでいること、、、そして自分の住む世界のこと・・・



「シュン様、まさか・・・この者・・・異次元の扉を・・・」
サンドが言った。
「何・・・!?」
蘭世を除いた4人が一斉に神妙に顔を見合わせた。
(異次元の扉・・・?)
蘭世一人がきょとんとして辺りを見回した。

「何?どういうことなの?」
蘭世は尋ねた。

「先日、死神族の者が突然いなくなった。それと同時に同一人物かと思われる男が夢魔の村に現れた。
そのものの話を聞いた分にはおそらく別人。初めは嘘をいっているとのことで尋問をしたが、そのようでもなく・・・
何が何だかわからないまま時間だけが過ぎた。
で、そのものが夢魔の村での生活になじみ始めた頃・・・いなくなった。
同時に・・・・行方不明になっていた死神が戻ってきた。。。。その男が言うには・・・
違う世界に行っていたと・・・・」
メヴィウスが答えた。

「違う世界・・・?」

蘭世が問い返す。
「異次元空間と呼んでおるが、古い昔からこういう事件は何度か起きている。何かのきっかけで、時空が緩み別の世界がこの世界に融合するときがあるという。そんなときこういう事件がおきると言われている。」
「じゃあ、わ、私も・・・?」
(そんな話聞いたことないけど・・・)
「恐らく、そなたの世界とこの世界が交差し、偶然その場にいたランゼ殿とそなたが入れ替わったのじゃろう」
メヴィウスが言った。



「ま、まさか・・・そんなことありえない・・・」
アロンが言った。

「だが、先日も死神族でさわぎになったばかりじゃ。次元が揺らいでおるのなら可能性はなくはない・・・。」
「エトワール家にも尋ねてみましたが、ランゼ様はご帰宅されていないようですし、魔界中探させておりますが、どこにもいらっしゃる気配がなく・・・」
メヴィウスとサンドがまじめな顔をして答えた。

「そ、そうだ!こ、こいつ、何かが化けて何かたくらんでるんじゃないのか?」
そういってアロンは蘭世のほっぺたをぐにーっとひっぱった。
「い、いった〜〜い!何すんのよーー、バシッ」
頬をつねられた蘭世は思わずアロンの顔をひっぱたいた。
「・・・!!な、何をする!こいつ!こいつこの僕に対して・・・許さない!!」
アロンは逆上して蘭世に向かって何か呪文を唱えだした。
「待て!!アロン」
シュンは怒り狂うアロンを制した。
「この娘が何者かはわからんが偽りを申しているようには見えない。確かに魔界人のようだし・・・異次元の世界から来たというのもこの前の今日だ。ありえない話ではない。それに・・・」
(確かに別人だが・・・なぜだ?懐かしさを感じる。ランゼに似ているからなのか?・・・)
シュンは言いかけたまま口を閉ざした。




「しかし、困りましたな・・・いまさら取りやめることなど王家の信頼に関わりますぞ」
サンドが不安そうな顔をして言った。
「いかにも・・・。」
メヴィウスも同意する。

「だ、だが、この者がランゼ殿でないなら、王家に迎えるわけには・・・」
アロンが制する。
「しかし、別人といっても顔は同じ・・・このまま続けて、元に戻るのはそれから考えても遅くはないのでは・・・」
サンドが言う。
「バカなことをいうな、サンド。そんなこと許されるはずがない」
「ですが、アロン様、普通のお式ではありませんのじゃ。しかもランゼ殿が入れ替わったとなると魔界中がパニックに陥るやもしれぬ。」
メヴィウスも続けた。
「う・・・」
アロンは閉口した。


「・・・・あ、あのーーーーえへへ、今度はなんの話??」
一人入り込めずにいた蘭世がこのスキにとばかりに口を割った。
「結婚式だよ、結婚式!!」
アロンはふてくされながら言った。
「誰の?」
「兄上とお前に決まってるだろぉ〜〜〜!」
いらだちながらアロンが答えた。


「えーーー!!何それ!何それ!聞いてないわ!」
「シュン様とランゼ様は一週間後に結婚式を挙げる予定なのです。」
サンドが答えた。
「魔界中に案内も回っておりますし、延長も中止もどちらにしても問題になります」
「だがなあ・・・!!!」
アロンとメヴィウスとサンドとそして蘭世も混じってが論争する中、シュンはじっと考え込んでいたが、
口を割った。


「うるさい!」
シュンはきっぱりいった。
その場にいた者達が一斉に口を噤む。
「式は・・・予定通り行う!」

「「「えーーーー!?」」」
「あ、兄上!」
「今更取りやめるなどできない、準備はそのまま続けろ・・・。あとメヴィウス、お前はランゼを元に戻す方法を調べてくれ。できるだけ・・・早く・・・。」
シュンはすっと立って部屋をでた。
「あ、兄上・・・お、お待ちください!」
アロンはシュンを追いかけた。
(ちょ、ちょっと待ってよぉ。。。なんでこうなるの??どうしよぉ・・・・)
思いがけない展開に蘭世は言葉を失ったまま呆然とソファに座り込んだ。






                               
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