想いが重なるとき
4
魔界に向かった3人は城でアロン王とメヴィウスに一連の流れを説明した。
「異次元の世界なんて・・・そんなことありえるのか?メヴィウス」
アロンが尋ねる。
「うむ、そういう話は過去に一度聞いたことがある。今生きている世界は一つだけではない。
人は選択して人生を生きていくが、違う選択をした場合の世界がその地点で枝分かれをして新しく発生する。
数え切れないほどのおびたただしい数の別世界が次元を超えて存在すると言われておるのじゃ。」
メヴィウスが続ける。
「そして、それぞれ全く違う軸で存在していた世界がたくさんの偶然の中、一点で重なり合う。
ちょうどその場にいた者たちは、無意識にその空間の境に足を踏み入れてしまう。さあ、どうなるか・・・」
「入れ替わる・・・・・・」
望里が言った。
「さよう。瞬間移動をしてしまうことになる。まるで異次元の扉を開いてしまったかのように・・・」
皆が静まり返ってメヴィウスの話を聞いていた。
「世界がいくつも存在する?信じられん。」
アロンが神妙な顔つきで言った。
「それで、・・・どうすれば元に戻せるんだ?」
俊が我慢できずに尋ねた。
「・・・わしも、実際身近でこんな話を聞くのは初めてのことじゃ。調べてみないと今はなんとも言えん」
メヴィウスが答えた。
「・・・いったいどうしたら・・・」
望里も口を開く。
誰も答えを出せないまま時間だけがいたずらに過ぎていく。
重い空気に耐えかねて俊はくそっとひとこと小さくもらして立ち上がった。
「江藤を探してくる」
「俊、探すったって・・・いったいどこを・・・」
アロンが止める。
「うるせえ」
「俊!」
「待たれい!」
メヴィウスが2人のやりとりを遮った。
「次元を超えたというなら、そのもう一つの次元もそうそう急には離れて行かんはずじゃ。もう一度次元が交差するかもしれぬ。そのときを・・・」
「・・・とりあえず、どうにか調べてくれ。俺はできることをする。何か手ががりがあるかもしれねえ。」
そういって、俊はバンとドアを開けて出て行った。
********
一方、人間界では鈴世があるバレッタを銜えて家に戻ってきていた。
「これ、おねえちゃんのだよね。お兄ちゃんにもらったって言ってよく見せてくれてたし」
そういって鈴世は椎羅にそのバレッタを差し出した。
真っ白のバレッタは一つの汚れもなく輝いている。
持ち主がいなくなったその輝きはすこし悲しげに見えた。
「このバレッタ・・・私も持っています。」
「え!?」
椎羅と鈴世はランゼの言葉に対して同時に振り向いた。
「今日、ちょうどつけていたんです。きっとあの時落としたんだわ・・・。
私も王子から頂いて・・・」
ランゼが目を伏せながら言った。
「なんだか・・・同じ状況だね」
鈴世が難しい顔で言った。
「今日、もしかしてその王子様と会う予定だった?」
「え、ええ」
「・・・お姉ちゃんも今日、これをつけてお兄ちゃんに会いにいったんだ。」
「・・・・・・同じ状況・・・」
「・・・・・・」
その後が続かずに3人は黙り込んだ。そのとき俊がテレポートで戻ってきた。
「あっ、お兄ちゃん!これ、駅に行く途中で見つけたんだ。お兄ちゃんがお姉ちゃんにあげたものでしょ?」
鈴世がバレッタを俊に見せた。
「・・・・これは。。。ああそうだ。これが落ちていた辺りにおかしなことはなかったか?」
「・・・ううん。特には・・・」
「そうか・・・」
(江藤・・・・)
俊は鈴世の手からその白いバレッタを取り握り締めた。
「真壁くん、魔界ではなんて?」
椎羅が俊に尋ねた。
「実は・・・」
俊はメヴィウスに聞かされた話を3人に伝えた。
「じゃあやっぱり蘭世は・・・」
「・・・確証はできないようですが・・・」
「その・・・もう一度交差するっていうのもいつかわからないのよね」
「・・・今のところは・・・」
「間に合うかしら・・・」
椎羅は手を口元にもっていってつぶやいた。
「え?」
俊が聞き返す。
「実はね・・・」
椎羅は黙って震えているランゼを見ながら結婚式の話を伝えた。
「こ、婚約!!??////」
俊は一瞬ぽっと顔を赤らめたがコホンと咳払いをしていつものポーカーフェイスに戻した。
「・・・一週間後か・・・」
「もし入れ替わっているとなれば、蘭世が・・・!!」
「そんなことはさせねえ!!」
俊は思わず大声を張り上げた。
「あ、あのいえ、・・・その・・・」
ふいに出た自分の言葉に俊はしどろもどろになる。
「そ、そうね。とにかく考えましょ」
俊の突然の大声に椎羅はびっくりしながら言って地下の図書室で方法を探してみると鈴世を連れて降りていった。
俊はにぎりしめていたバレッタをもう一度強くつかんだ。
(絶対探し出して見せる・・・)
ふっと俊はランゼを見た。
ランゼも俊を見ていた。
(雰囲気は違うが、涙を流した顔はやっぱ一緒だな・・・)
俊はふとそう思った。
あいつも今、こんな風に泣いているのだろうか。。。
「とりあえず・・・」
「え・・・?」
「あんたも一緒に来てくれ。手がかりを探しに行く。あんたがいれば何か気づくことがあるかもしれない」
「・・・はい」
(とりあえず、できることからしなければ・・・)
俊はぐっと唇を噛んで玄関を出た。
地下におりてから鈴世は椎羅に言った。
「どうなっちゃうんだろうね。お姉ちゃん・・・戻ってくるよね」
「大丈夫よ・・・何か方法があるはずよ」
椎羅は不安そうな顔をしている鈴世に言った。
「・・・おかあさん、さっきさあ、・・・お兄ちゃんかっこよかったね」
「え?」
「ほら、”そんなことはさせねえ”って・・・。あんまり大きい声だったから僕びっくりしちゃった」
そういって鈴世は笑った。
「うふふ、そうね」
椎羅も驚いていた。
初めて目の前で俊の感情を見た気がした。
今は平穏に過ごしていた二人だが、今まで何度も蘭世を苦しめた俊に椎羅は
わずかなわだかまりを残したままであった。
だからこそ、いつもはほとんど自分の感情を出さない俊が、思わず見せた本心が椎羅はとてもうれしかった。
王子とかそういうことはぬきで、蘭世を想う一人の男性として頼もしく思えた。
「・・・真壁くんがきっと蘭世を助けてくれるわ。そういう人よ」
椎羅はにこっと微笑んで鈴世の頭をなでた。

NOVELオリジナルTOPへ