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       第3話                           
written by かる










「ここ・・・どこ・・・?」



かすかな水音で目が覚めた。

気が付くと、蘭世は暗闇の中にいた。

先ほどまでいた学校の景色は消え去り、まったくの異空間であることが肌の感覚でわかる。

目が慣れてくるとそこは、広い洞窟のような場所で燭台のロウソクが灯す明かりに照らされ

きらきらと光る湖があることがわかった。

蘭世は柔らかいソファーに寝かされていた。

耳元から聞こえるぼそぼそとした話し声でそこには複数の人間がいることがわかった。

蘭世はゆっくりと顔を声の方に向けた。

そこには黒ずくめで白い仮面をかぶった何人かの人間がこちらを見ていた。

その異様な光景に蘭世は身をすくめた。



「やあ、目が覚めたかい?」



聞き覚えのある声がした。

黒ずくめの人間たちの中から割って現れたのは津村だった。



「あなたたちはいったい・・・何者なの?」



蘭世がゆっくりと起き上がり、自分を襲う恐怖の感情を押し殺しながら言った。



「僕らは・・・そうだな『ファントム』・・とでも言っておこうか。

オペラ座の地下の暗い水路で美しい歌姫に恋をして、彼女の為に罪を重ねてしまう、哀れな怪物たち・・・。」



と津村が柔らかく笑い、答えた。

「見てごらん。」 津村がすっと指差した先。

湖の水が立ち上ったかと思うと水は形を変化させ大きな鏡になった。

その鏡には、誰かが映し出されている。



「真壁くん!」



蘭世が叫んだ。

鏡には俊の姿が映し出されていた。

先ほど蘭世が消えた非常口のドアを何度も彼女の名前を叫び、叩いている。

何度も何度も、体ごと扉に打ち付けて必死に扉を開けようとするが扉はびくともしない。



「くくく・・・。必死だね。でも無駄だよ。ここは僕達が造った結界。ただの人間の彼では入ることすら出来ない。」

仮面の男の一人が、鏡越しに両の手をかざし、念を飛ばしはじめた。

放射状の光が非常ドアを包み、その光が俊の周りを被うとバシッという激しい衝撃音と同時に俊の体が弾けた。



「真壁くん!」



非常口のドアに触れるたびに俊の体に衝撃が走る。

何度も倒れ、それでも彼は何度もドアを叩き続けた。

ドアを叩き続けた俊の拳からしだいに血がにじみはじめるのが見えた。



「お願い、もうやめて!」



蘭世は叫んだ。

「どうしてこんなことをするの?わたしの秘密を知っているだけなら どうして真壁くんを巻き込むの?彼は関係ないでしょう!」

すっと仮面の男の一人が蘭世のほうを向いた。



「これはね、お仕置きなんだよ。」

と、仮面の奥の口がにやりと笑ったのが見えた。

次の瞬間。

男の後ろから、大きな衝撃音とともに鏡が弾けとんだ。

キラキラとガラスが舞いおちる。

刹那、一つのシルエットが浮かび上がった。



「真壁くん!!」



ヒューと口笛を津村が吹いた。

「すごいね。自力であの結界やぶっちゃったよ。彼女がからむと、ほんと君はむちゃくちゃだなあ。」

津村は肩をすくめながら笑った。

「津村・・・それになんなんだ、お前ら。変な格好しやがって、どこだよ、ここは!」

俊は津村を睨みつけた。

体中から怒りのオーラが出ているのがわかる。



「江藤を返せ!」



蘭世を見つけた俊は、怒り任せに蘭世のまわりにいた仮面の男たちを蹴散らした。

俊の手は蘭世の手をとらえて、ぎゅっと俊は自分の胸に彼女を引き寄せた。

彼女を抱きかかえると、俊は少しホッとしたように息を吐いた。

蘭世は俊の拳ににじむ血を見つけて俊の胸の中で、「ごめんね。ごめんね。」と何度もつぶやき泣いている。

俊はそれを制止するように



「言っただろうが。守ってやるって。」



と言った。

「まるでお姫さまを守る騎士だね。」

不意に俊の背後で声がした。



「だけど、これでジ・エンド。」



仮面の男の一人が、俊の頭をつかみ、俊に念を飛ばした。

それと同時に、俊の体は崩れ、地面に投げ出された。



「真壁くん!!」



地面に投げ出された、俊の体を蘭世は自分の膝に抱きかかえた。

蘭世はぐったりと倒れた彼の名前を必死に泣き叫んだ。

津村がゆっくりと蘭世たちのそばに近付いてきた。

その気配を感じ蘭世は、俊をかばうように被いかぶさった。

そんな彼女を見ながら、少し寂しげに笑った。



「君は本当に彼のことが好きなんだね。・・・だけどその想いがこの先、君を苦しめるかもしれない。

それでも君はいいの?」



「私は魔界人だけど、モンスターだけど・・・

気味悪がられてもいい。真壁くんとずっと一緒にいたいの。ずっとそばにいたいだけなの・・・。」



手で涙を拭いながら、俊の頭をきゅっと抱きしめて

「大好きだから。」 とつぶやいた。

津村はそんな彼女の頭にそっとと手をあて



「彼は大丈夫だよ。気絶しているだけだ。 ごめんね。ほんのちょっと悪ふざけがすぎたみたいだ。」



と言った。

仮面の男の一人が、津村に何かを手渡した、それを受け取ると 津村は蘭世の手をとり、手のひらにそれを手渡した。



「プレゼントだよ。本当はね、これを君に渡したかっただけなんだ」

蘭世の手のひらにちょこんとのったのは、小さな紙の包みだった。



「君が大人になった時、それを開けてごらん。それが何か解るよ。」



そう言い残すと、津村は優しい笑顔とともに仮面の男たちと一緒に風のように姿を消した。

それとともに、辺りの景色は一瞬に変わりいつもの日常、いつものおだやかな学校の景色が広がった。

蘭世は非常階段の下の芝生が広がる広場で蘭世は膝に俊を抱きかかえながら

広がる青い空にふうと息を吐いた。



「ん・・・。」



俊が目を覚ました。

「大丈夫?」

心配して覗き込む蘭世は、思いのほかのアップで、しばらくすると自分の置かれた状況に気がついて

あわてて赤くなりながら、俊は飛び起きた。



「津村は?あの仮面の男たちは?」



周りを見回す俊に、蘭世はくすりと笑った。

「え?なあにそれ・・・。あはっ夢をみたのね。」

「夢・・・?」

「そう、夢。真壁くんたら、さっき階段から派手に転んで気絶しちゃったのよ。」

蘭世はそう言って非常階段を指差した。

「そうか・・・夢・・・夢か・・・。なんか情けねーな。俺。」

少し納得できない表情をしながらも、俊は頭をぽりぽりとかいた。

「ほんとに・・・。」

蘭世は俊の方に自分の額をぽすんと預け



「心配・・・したんだから・・・。」



とつぶやいた。



「江藤・・・。」

俊は、肩に感じるかすかな体温の心地よさを感じながら、あまった両の手の居場所を探しつつ

穏やかな青い空を見上げて、少し笑った。








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素材提供:  さま