SCENE
第4話   目撃





入学してからしばらく月日も経ち、1回生たちも大学の雰囲気に慣れていく。
蘭世たちもその他の学生達と違わず、楽しげなキャンパスライフというものを堪能していた。





そして、先日の俊との会合?以来、蘭世と俊の仲は急速に近づいていた。

「江藤!心理のノート貸してくれ!」
「またぁ?たまにはきちんと授業に出なさいよ〜。もうーハイ」
「おっ!サンキュ。江藤がいてくれて助かるわ。」
「何よぉ。私、都合のいい女になってない?」
「ないない!感謝してますよ」
俊はそういって蘭世から借りた心理学のルーズリーフを自分のかばんにいれた。

蘭世はもう!っとふくれながらも、こういうつかずはなれずの関係を心のどこかで楽しんでいた。





とりとめのない会話をし、冗談を言い合う。
まるで昔から知っていたような錯覚を起こすほど、2人はよく気が合った。

「お前らさぁ、本当につきあってねえの?」
周囲にいるクラスメイトたちはよくそう2人に尋ねた。
誰もが訝しがるほど、2人は絵になり、誰もが入り込めないほどの空気を2人はかもし出していた。






だが、そんなときは決まって、
「そんなんじゃねえよ。なぁ。」
っと俊は怪しまれる関係を否定した。
「・・・・・・うん」
蘭世はいつも同意を求める俊に笑ってそう答えるのが日課になっていた。




確かにそうだ。
自分達は付き合ってはいない。
2人でごはんを食べたり、ノートを貸し借りしたり・・・・・
ただ、そういうだけの関係であって、
好きだの嫌いだの、付き合う付き合わないだの、そんな話は2人の間では全く出ていなかった。
最初に2人で話したあの時以来・・・・・・。

蘭世自身、そういう話題をなんとなくさけていたし、俊もそういうそぶりは一切見せなかった。

これでいい。こういう仲のよい男友達という関係を、このまま味わっていたかったのだ。



だが、その反面、周囲から発せられる交際を勧める言葉に、いつも決まって俊が即座に
否定するのが蘭世はなんとなく寂しく感じていた。

(そんなに毎回否定しなくたって・・・やっぱ迷惑なのかな・・・)

蘭世はそう考えながら、学生食堂のテーブルに片肘をつきながら、日野たちと笑いあう俊の姿を
自分も顎を右腕で支えながら、しばらく無意識的に眺めていた。

(でも、彼女がいるような感じも見せないし、他に仲良くしてる女の子の姿も見ないし・・・・、
周りから見れば彼氏と彼女みたいに見えるよね・・・・・・なんて・・・)

そんなことを考えていると、俊は「だよな、江藤」とパッと蘭世の方に顔を向けた。

「え?な、何?ごめん聞いてなかった」
(び、びっくりしたぁ・・・急に振り向くと思わなかったぁ・・・・)

「なんだよ、こっちみてるからてっきり聞いてると思ってたぜ」

「え!///いや、その・・・・・」

「あんがい、真壁に見とれてたんじゃねぇの〜?」

一緒にいた男がニヤニヤしながら蘭世を見ていった。







「ち、ちが・・・」




「だから、そんなんじゃねぇって。まだ言ってんのかよ」





蘭世が否定する前にまたしても俊がそれをさえぎって代わりに否定した。
(だから、どうしてそんなに頑なに否定するの・・・・?)
蘭世はばっと椅子から立ち上がった。




「帰る・・・」




「え?」
その場にいた蘭世以外の人間達はきょとんとして蘭世を見た。



「じゃ・・・」
蘭世は一言そういってその場から立ち去った。





「あ、おい!江藤!」
日野が呼び止めたが蘭世は振り向きもせず、行ってしまった。


「なぁ、真壁、追いかけなくていいのか?」
一人の男が俊にそう言った。


「なんで、俺が?」
俊は椅子の背もたれに、体を預けて答える。




「なんでって・・・」

「だってホントのことなんだから・・・俺にどうしろって言うんだよ」


「江藤のこと、好きなんじゃねぇの?」
日野が少し真顔になって俊を見つめながら言った。





「・・・・・・さぁな。出ようぜ・・・」
俊は言葉を濁しながら、席を立った。
その他のものたちは、突然重苦しくなったその場の空気をそれぞれ背に負いながら、
お互いに目を合わせふぅとため息をついた。
















        *****     *****     *****














蘭世は歩きながら、突然、席を立って去ってきてしまったことに、後悔を感じていた。
何がどうであれ、俊の言っていることに偽りはなく、
自分の心にふってわいてきた悲しみと苛立ちを、どう説明してよいかわからなかった。









(私は彼にどうして欲しいの・・・?彼とどうなりたいの・・・?
それを避けているのは自分なのに・・・)





自分の我侭加減を腹立たしく思いながら、蘭世は校門を出た。
(私は・・・・やっぱり・・・・彼のこと・・・・)









「蘭世!」
そう思ったとき、ふと自分を呼ぶ声に蘭世は立ち止まった。









「・!!・・・・・圭吾・・・・どうしてここに?」
蘭世は突然登場したこの男に目を丸くさせた。



「なかなか会えないからさ・・・・来てみたんだ。ちょうどよかったよ」
男がそういいながら蘭世の方に近づいてきて、蘭世の肩に腕を回した。




「ちょっと、やめて・・・」
蘭世は回されたその腕をほどこうとした。
蘭世は気持ちがどろどろと自分の中で回っているのが腕を伝わって圭吾に気づかれそうな気がして怖くなった。。


「なんでだよ。つれないな〜。せっかく彼氏が会いにきてるってのに〜」
圭吾は少しむくれながらも笑った。

「・・・・・・」
「とりあえずさ、せっかく蘭世の大学に来たんだし、校内でも案内してよ。時間あるんだろ?」
「え、でも・・・・」
「いいからいいから」
そういって圭吾は蘭世の背中に腕を回して歩き出した。
蘭世もその勢いに押されながら、今来た方向に戻らざるをえなかった。












     *****     *****     *****














「なぁ、俺だけにはホントのこと言えよ。お前、江藤のこと好きなんだろ?」
2人だけになった俊と日野は教室に向かうため歩いていた。
日野はさっきから口を閉ざしたままの俊に再度尋ねた。




「しつけぇな〜。どうでもいいだろ。そんなこと・・・」
俊は前を見たまま答えた。



「俺にも言わないつもりなのか?何年ダチやってると思ってんだ。見てりゃわかるんだよ」
日野は煮え切らない俊の態度に苛立ちを覚えながら告げた。







「・・・・・・・もし、・・・・・・好きだって言ったらどうなるんだ?」
俊はちらりと日野を見ていった。



「そりゃ、応援するさ。2人は周りから見てもいい感じだしさ。うまくいくだろ?」
日野は少し心を開きかけた俊の言葉がうれしく、笑いながら言った。












だが、俊は日野の言葉を耳に入れながらも、視線の先にある姿を捉えていた。
そしてその瞬間、パタっと立ち止まった。
「・・・・・・ふうん、でも、そううまくは行くかな・・・」



俊は日野に対して、先ほど捉えた風景を、あれ・・・っと顎で示した。







「え・・・?あれ・・・江藤・・・?誰だ?横にいるヤツ・・・」
日野は目を丸くして言葉少なに述べた。





「・・・・・・アイツの男だろ」
俊は動く獲物を追いかけるように、視線を蘭世からはずさないまま言った。






「男?あいつ彼氏いんの?」


「みてえだな・・・。嘘かと思ってたけど・・・・。ま、嘘をいう理由もねえか・・・」

俊は行くぞといって、また歩き出した。




「何?どういうことだ?お前知ってたの?」

日野はわけがわからないといった顔で俊の背中に問いかけた。




「まぁな」





「だから、お前言わなかったのか?」







「・・・ふっ。だから、別に好きだなんてまだ言ってねえだろが」
俊は笑っていった。





「・・・・まだ・・・だろ?」
日野は真剣な顔で答える。







「・・・・・・」




俊は口を閉ざしたまま、何も言わなかった。



「でも、まださっきのヤツが彼氏と決まったわけじゃ・・・」
日野は少しトーンを落としながら言った。








「・・・何でもいいじゃねえか。ハイ。もうこの話は終わり。行くぞ!」
そう俊は言ってそれから何も話さなくなった。






日野は俊の背中を眺めてから、振り返ってもう一度蘭世の姿を確かめてから、ふぅと小さく息を吐いて、
俊の後についた。









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