SCENE
第6話  拒絶

この章は、
原作との設定とはかなりかけ離れた部分が出てまいります。
また、若干ですが、性描写を含む場面がでてまいります。
苦情等はお受けできかねますので、
お読みになるときはご注意なさってください。

圭吾と肌を合わせたのは、これが初めてではなかった。

付き合い始めるまで時間があったせいか、
きちんと付き合うという話になってから、
そういう関係になるには、そう時間はかからなかった。


だが、
求められて受け入れるものの、蘭世は、それを楽しむとか、
ましてや、心地よいなどとは、正直、一度も思えずにいた。

ただ、そうすることが、つきあうということの一つの形であると思っていたし、
拒む理由も見つからなかった。
受け入れるということが、好きだということなのだと思っていた。


流されている・・・・・・そう言われればそうなのかもしれない。
だが、そう理解できるほど、まだ蘭世は経験を積んでいなかったし、それほど大人でもなかった。











いつものように、
圭吾の唇は、蘭世の唇としばし遊んだ後、首筋へと移っていく。
そして、圭吾の指先は、すでに蘭世の服の中に滑り込み、背中をすっとさすったかと思うと、
一瞬のうちにブラの止め具をぱちんとはずし、それと同時に圭吾の手は、
蘭世の滑りよい胸へと移動した。



(・・・・・・まかべ・・・・くん・・・)



蘭世は、その瞬間しっかりと閉じていた目をぱちっと開けた。



(私・・・今・・・何を考えた・・・!?)



圭吾の背中に回していた細い腕を蘭世はハラリと解いた。




圭吾の愛撫はゆるやかで、それでいて、次第に激しくなっていく・・・・・・。
左手は一連の流れの中で、すでに蘭世の薄い生地のスカートを簡単にたくし上げかけていた。



(や、・・・やめて・・・・・・・・・助けて・・・・・・・真壁くん・・・!!)


そう思ったと同時に蘭世はドンッと圭吾の胸をつっぱねて、体を離した。

「・・・・・・蘭世?」
圭吾は突然の蘭世の拒絶に、一瞬きょとんとした目をしたが、
すぐ、訝しげな顔をして見せた。


蘭世は瞳に何か熱い液体がたまっていくのを感じでいた。


「ごめん・・・帰る・・・」
そういって涙が溢れ出す前に、圭吾から顔をそむけ、カバンをつかんで部屋から駆け出した。



「・・・くそっ・・・」
圭吾はその場にすとんと座り込み、こぶしを握り締めた。











     *****     *****     *****













蘭世はとぼとぼと自宅への道を歩いていた。
一度あふれ出した涙はすでに止まっていた。

(あの涙はなんだったのだろう・・・)

蘭世は思考力も定まらないまま、ただ漠然とそんなことを考えていた。








今まで、そうすることが当たり前だと思っていたことが


出来なくなった。


どうして・・・・・・


出来なくなった・・・・・・?






どうして、あの時、私は・・・・・・真壁くんを呼んだのだろう・・・










気づきたくない・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・











蘭世はぎゅっと目を閉じた。











言葉にしてしまえば、
全てが動き出す。




押さえていた気持ちが、
形になって
動き出してしまう・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
























蘭世は地下鉄に乗るために、歩道に設置された地下への階段を降りるために
そこへの角を曲がった。
その瞬間、ドンッと出会い頭に人とぶつかった。



「あ、ごめんなさ・・・・・・」
蘭世は顔をあげて、その人物を確認すると一瞬にして言葉を失った。




「あ・・・・・」
「江藤・・・・・・?」
「・・・・・・真壁くん・・・・・・」

先ほど心で叫んだ男が目の前に現れた偶然のイタズラに蘭世の心は騒いだ。
だが、すぐそれは別の動揺に変わった。




「お前、なんでこんなとこに・・・・・・」



「誰〜?俊、知り合い?」



俊が蘭世に声をかけた言葉を遮るかのように
一人の女性が俊の隣からひょこっと顔を出した。
少し勝気そうだが、鼻がすぅーっととおった美人な女性だった。
きりっとした眉が印象的だった。



(・・・・・・俊って・・・・・呼んだ・・・・・・?)




蘭世は何もいえないまま、その場に立ち尽くした。
「・・・・・・江藤?」
俊は怪訝そうに蘭世の顔を覗き込んだ。



「あ、・・・・えーっと、か、彼女?」
蘭世は無理に笑顔を作ってぎこちなく笑った。
俊は蘭世をじっと見たまま何も答えなかった。



「ねぇ〜、俊ったら〜。早く行こ!店込んじゃう」
その女性は俊の腕を両手でぎゅっと抱えてひっぱった。
「せっかく、俊が誘ってくれたんだから〜、時間がもったいない〜」



(なんだ・・・・彼女・・・・・・・いたんだ・・・そりゃ、私のこと否定するはずよね・・・)



蘭世の目が再び、涙がいっぱいになりそれはハラリと頬を伝った。
蘭世はくるりと振り向いてその場から走り去った。




「江藤!!」
追いかけようとした俊の腕を女が引きとめた。
「行・く・よ♪」
その女性は口元の両端をきゅっとあげて言った。
「・・・・・・曜子・・・」
曜子と呼ばれたその女性に促されて、歩き出した俊は、
もう一度後ろを振り返った。









(なんで・・・・・泣くんだよ・・・・・)


俊は蘭世の瞳から涙があふれ出た瞬間を、何度も何度も
思い出さずにはいられなかった。
















蘭世は少し走った後、立ち止まってはぁはぁと息を整えていた。
だが、
涙だけは・・・・・・止まらないまま溢れ続けていた。



(私は・・・・・・何を泣いているの・・・・・・)


蘭世はぎゅっともう一度強く目をつぶった。







気づいちゃいけない・・・・・



でも



気づかずにはいられない・・・・・・



もう、ダメ・・・・押さえられない・・・・・・・・







私は・・・・・私は・・・・・・



真壁くんが・・・・・



スキ・・・・・・








その場に立ち尽くしたまま、蘭世は溢れてくる涙をとめることをやめた。
涙と一緒に、蓄積された深い想いが、心の奥からとめどなく溢れてくるような気がして、
蘭世は少し怖くなった。













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