恋路ひとえに




    










俊×蘭世。
設定は中学時代です。
原作のストーリーの流れは無視してますのでご注意を!















文化祭当日――――。



答えの出ない悲しみに蘭世は眠れないまま一夜を過ごした。

あれだけ楽しみにしていた文化祭なのに、昨日のあの現場に出くわしてからは一気に気持ちが落ち込んでしまった。

しかし、だからといって休むわけにもいかず、そのまま蘭世は登校した。

ここ数日の気持ちの高まりが一気にこの日に向けて放たれたものであることを再確認できるくらいの盛り上がりがそこにあった。

開催時間まではまだ1時間ほどあるのに、学校の中は早くも祭りムード一色で

ここだけ世間からは隔離された別世界だった。



教室に向かうと、廊下で昨日の女の子を見かけた。

別の子とすでにシャツに袖を通してとびっきりの笑顔がそこにあった。

(真壁くんのシャツなんだ・・・)

あれから二人がどんな会話をして、そしてどんな風に俊が彼女にそのシャツを渡して、

どんな風に彼女がそのシャツを受け取ったのか、どんな風に別れたのかはわからない。

しかし、彼女が俊の服を着ているということが蘭世の心をまたしめつけた。

彼女があの俊の服に腕を通す瞬間、いったいどんな気持ちでいたのだろう。

俊を想い、胸に抱いて、ドキドキしながらそのシャツを着る。

まるで自分が俊に包まれているようなそんな感覚さえ覚えたりして。。。





ヤキモチ、嫉妬、羨望・・・

なんなのかわからない。

いや、どれもに当てはまるのだろう。

でも、それを制止することなんて自分にはできないことが一番悲しいのかもしれない。

だって私は真壁くんの彼女でもなんでもないんだから。

ただの私の片思いなんだから。



目を伏せて教室に入ると、そこにはすでに俊も来ていた。

(ううぅ・・・よりによって・・・)

「真壁がこんな日にこんな早く来てるなんて意外だなぁ」

「うるせぇ」

クラスメイトと談笑していた俊が教室に入ってきた蘭世を見つけた。



「オッス」

「お、おはよ」

俊から声をかけてくれるなんていつもなら飛び上がるほど嬉しいはずなのに、

今日はどうしても上手く笑えない。

それに俊も気付いたのか「ん?」と首をかしげた。

「どうかしたのか?」

「え?何が?」

「・・・やけに大人しいから」

自分のことを気遣ってくれる俊の言葉が今日はとても切ない。

嬉しいのに、素直に喜べない。

「え?そ、そうかな?ちょっと昨日眠れなくて・・・寝不足・・・かな?」

そういって蘭世は笑顔を作った。

「何だよ。楽しみすぎてか?ガキみてえ」

俊はそういうとクッと笑った。



そうよ・・・楽しみだったの。

真壁くんと一緒に楽しみたかったのに・・・。



蘭世は目が熱く潤ってくるのを感じてその場から駆け出した。

「お、おい!江藤!」

俊が背後から呼ぶのにも振り返れない。

蘭世はそのまま教室を出て行った。



「あっら?真壁、江藤とケンカでもしたのか?」

「別に、んなんじゃねえよ。」

そういいながらも俊は釈然としない気持ちを抱えながら蘭世の出て行った方を見つめていた。












空は高く秋晴れ―――。

雲ひとつない青い澄み切った空を見上げると蘭世はほぉっと深く息を吐いた。

文化祭は滞りなく無事閉幕した。

鈴世の案内をしたり、クラスの催しもうまくいってその慌ただしさに身を置いていると

落ち込んでいた気持ちは幾分薄れていた。

そして逆に八つ当たりのようになってしまった俊への態度にも今は後悔を覚えていた。



(真壁くんは何にも悪くなくて、私だけが勝手に思い悩んでいるだけなのに・・・)



しかし、なんだかうまく目を合わせられなくて今日もまた俊を避けてしまった。

何か言いたげにしていたようだけど、逃げるようにして避けてしまった。



「あ〜あ」

うまくいかない気持ちにもどかしさを感じて蘭世はため息を吐いた。

「ため息なんてどうしたの?蘭世らしくないよ」

振り向くとそこには楓が立っていた。

「なんか元気ないね」

「え?そ、そう?わかる?」

蘭世がドキッと顔をさせると楓はにこっと微笑んだ。

「だって、真壁くんと話さない蘭世なんて、珍しいじゃない。一目瞭然よ」

「そ、そっか・・・私ってば、わかりやすいのかな」

「くす・・・そうね。」

「ガーーン」

「でもそれが蘭世のいいところでしょ?」

「・・・楓ちゃん・・・」

蘭世の目から涙があふれ出した。

そして抱えていた思いがそれと一緒に一気に流れ出した。



++++++



「・・・バカね、蘭世ったら」

楓は二人座ったベンチで蘭世の肩にそっと手を置いた。

「真壁くんがシャツを貸しただけのことでしょ」

「うん・・・そうなんだけどね」

「でもしょうがないよ。たぶん、それが恋ってヤツじゃないの?」

「恋?」

「好きな人の言動一つで舞い上がったり、落ち込んだり・・・辛いこともあるけど嬉しいこともいっぱいあって・・・」

「・・・うん」

「でもそこでへこたれないのが蘭世じゃないの?」

「・・・へ?私?」

「あの神谷さんにあれだけ対抗できてるのに、相手が変わっちゃったらダメなの?」

「で、でも・・・神谷さんとは違うタイプっていうか・・・あんな真剣に迫られちゃったら真壁くんも心が動くんじゃないかって・・・」

「で、どうなの?動いた感じなの?」

「・・・わかんない」

「いつもはあんなに真壁くんにぶつかっていってるのに、今回はどうしちゃったのよ。蘭世らしくないよ」

「・・・確かにそうだね」

「それに、真壁くんはそれくらいじゃ心動かないと思うよ」

「な、なんで?」

「真壁くんってあんなだし、神谷さんがいたからあまり誰も近づかなかったけど、昔からよくモテてたの。」

「え!?そうなの?・・・って言われて見ればそうだよね・・・かっこいいし・・・」

「でも、告白とかされても全然振り向かないのよね。硬派というか、なんというか」

「・・・・・」

「彼女のことはとにかく、真壁くんはそんな突然の告白とかで心が動く人じゃないのよね」

「それって・・・やっぱ私もダメってこと・・・?」

「あーそうじゃなくてー、そんな真壁くんが蘭世をとにかく気にしてるでしょ?それってすごい変化だと思うのよね」

「え?真壁くんが私を気にしてる?まさか、そんなわけないでしょ。」

「気づいてないのは蘭世だけでしょ。というか蘭世は昔の真壁くんを知らないから無理もないんだろうけど」

「そ、そうなの?」

「さぁ?私は真壁くんじゃないからホントのところはわかんないけど、蘭世が元気がないところってきっと真壁くんも気づいてるよ。

それってすごく大きなことだと思うんだよね。」

「・・・・・・」

「クヨクヨしてるなんて蘭世らしくないよ。真壁くんにだって心配かけたくないでしょ?」

「・・・うん・・・そうだよね。私・・・なんかちょっと元気出てきた。」

「キューピッドみたいな力、私持ってないけど、話聞いてあげることぐらいはできるんだから、一人で悩まないで」

「うん。ありがとう!楓ちゃん」






*****     *****     *****









恋ってよくわからない。

自分がどうしたいのか、真壁くんにどうして欲しいのか、

こんなに自分が欲深かったなんて知らなかった。

ただ、真壁くんが好きなだけなのに・・・。

たぶん、あの女の子もきっと同じ気持ちなんだろう。

せっかくのこの機会に勇気を振り絞った結果の行動だったんだろう。

真壁くんを想ってる女の子が他にもいたなんてまったく気づいていなかったけれど、

あの子からしてみたら私の存在も神谷さんの存在も、私があの子のことを思うような気持ちと

きっと同じなんだろう。

誰もが同じ夢を見てる。

ただ、真壁くんを好きだという気持ちだけを抱えて。






顔を上げて空を仰ぐとと気持ちは何故かスッとした。

不思議だ。

そういえば昨日から一人でいるとずっと俯きっぱなしだった気がする。

ずっと天気もよかったはずなのにそれもよく覚えていないほどに。

楓の心からの励ましもあって、蘭世の気持ちも少し前をむき出した。

「あんなことぐらいでウジウジなんて蘭世らしくないゾ!」

悩んだところでそれでも俊を好きだという気持ちは変わらないんだから。。。









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